医学部入試の制度として、国公立医学部にも私立医学部にも「地域枠」があります。
各県で不足する医師を確保するための制度で、その実施要項については各大学の枠で様々です。
地域枠で医学部に入学すると、各自治体から修学資金の貸与があり、大学卒業後に9年間は自治体の指定する医療機関や診療科の医師として勤務をすることになりますが、一般的には都会の自治体は診療科が指定されていることがより多いです。
これは都会では医師数が地域偏在ではなく診療科偏在が問題になっているためです。
受験生は希望する卒後のキャリアとミスマッチにならないように、地域枠の主旨を理解したうえで固い決意を持って出願することが必要です。
卒後の勤務義務を反故にすることは「離脱」と呼ばれ、大きな問題となっていましたが、各自治体の同意がなく離脱した人には、専門医の認定が行われないことに加えて、各病院にも臨床研修受入時に自治体や大学に十分に確認せずに研修受入れした場合は、補助金の減額や定員を減ずる等のペナルティが課されるなど、近年は制度が整ってきていることもあって離脱率は低くなっています。
間違っても、「貸与された修学資金を返金すれば、卒後義務を果たさなくてもよい」などと安易に考えるべきではないでしょう。
それらを大前提としたうえで、受験生が気になるのは入試の難易度ではないでしょうか。
地域枠と一般枠と差があるのか、昨年度の帝京大学の入試結果(表は帝京大学のホームページ)を確認してみましょう。
<帝京大学医学部 2024年度入試結果>
受験者数や倍率などデータが公表されていますが、受験の難易度を考えるときに注目するべきはやはり合格最低点でしょう。さらに帝京大学は各入試区分の合格者最高点も公表されていますので、参考にすることができます。
この年は、静岡枠の受験者が例年に比べても非常に多い年でした。
それにも関わらず合格最低点は僅かに1点ですが静岡枠の方が低く、他の県では最も低かった千葉枠で42点の差がありました。配点300点の入試でこの差は非常に大きいと言えます。
また、合格者の最高点を見ると、静岡枠と茨城枠以外の県では最高点でも一般枠の合格最低点に届いていないことがわかります。
したがって、入試の難易度は一般枠に比べて地域枠の方が低いことがある。ただし、募集人員が少なく、受験者数の隔年現象も考えると不確定要素は大きいと言えそうです。
ちなみに各自治体の中で、地域枠入試が最大規模で行われているのは「新潟県枠」と「静岡県枠」です。2県とも医師不足で医師の偏在指標が低く、さらには県内に私立大学医学部の設置がないという共通点があります。以下は2県の2024年度入試における一覧です。
■新潟県地域枠 【私立医学部の修学資金は2,160万円、★は3,660万円、★★は3,700万円】
・新潟大学 40名 (推薦)
・獨協医科大学★ 2名 (一般)
・杏林大学★★ 4名 (一般)
・順天堂大学 1名 (一般)
・昭和大学 7名 (一般)
・帝京大学★ 1名 (一般)
・東京医科大学 3名 (推薦)
・東邦大学 8名 (推薦・一般)
・日本大学 ★ 4名 (一般)
・日本医科大学 2名 (一般)
・北里大学 ★ 3名 (指定校推薦)
・関西医科大学 2名 (推薦) ※2025年度は一般前期に変更予定
■静岡県地域枠 【私立医学部の修学資金は1,440万円】
・浜松医科大学 15名 (推薦・一般)
・順天堂大学 5名 (一般)
・帝京大学 2名 (一般)
・昭和大学 5名 (一般)
・日本大学 3名 (一般)
・日本医科大学 4名 (一般)
・東海大学 3名 (共通テスト利用)
・関西医科大学 8名 (推薦) ※2025年度は一般前期に変更予定
・近畿大学 5名 (一般)
・川崎医科大学 10名 (一般)
2県ともその県にある国立大学の新潟大学と浜松医科大学でも地域枠入試が実施されていますが、他県にある多くの私立大学医学部で入試が行われています。
私立医学部の学費は全31大学の平均の約3,200万円程度ですが、貸与される修学資金で学費の大半や、中には全額相当を補える大学もありますので、地域枠入試は『学費のために医学部進学を諦めないための制度』とも言えるでしょう。
Medi-UP(メディアップ)では、例年9月初旬に関西の4私立医大の合同説明会を実施していますが、昨年から新潟県地域枠の担当者にも説明を頂く機会を設けています。
地域枠というと卒後の義務のことが注目されますが、新潟県では卒後の柔軟なキャリアプログラムなど、若手医師のキャリア形成支援のためのサポートも充実し、また「イノベーター育成臨床研修コース」や「海外留学支援制度」などユニークな制度も実施されています。関西の医学部では、関西医科大学に新潟県枠がありますが、修学資金2,160万円は大学6年間の学費を上回る金額です。
新潟県枠の受験を考えていない方でも、例えば地域医療や医師の確保をどのように行えばよいか(入試の小論文・面接で頻出!)を考えるときに、新潟県の取り組みが非常に参考になると思います。
■9月8日(日) 開催 @メディアップ上本町校
関西4私立医大合同 入試説明会2024
最後に、厚労省は先日7月3日に行われた検討会で、『2025年度医学部定員について、医師多数県から医師少数県に「臨時定員地域枠」を移すなどの調整を行う』見込みであると説明しました。医師多数の16都府県で計30枠が減少する一方、医師不足傾向が強い県の地域枠定員が調整で増加する見込みで、最終的な調整結果は今秋頃に判明する見通し(厚労省のホームページ)です。
今後の発表が注目されます。
Medi-UP 土肥真輔
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